東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)115号 判決
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〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件特許に関する特許公報及び第一引用例とを対比考量すると、本件特許発明において使用するラッカーの組成と第一引用例記載のラッカーのそれとの間には、本件審決認定の相違点のほか、さらに、(3)本件特許発明においては、特にアルコール可溶性硝化綿を使用する点及び(4)溶剤として、第一引用例記載のものにおいてはエーテル類の一種であるグリコールモノエチルエーテルを使用するに対し、本件特許発明においては、低級アルコール類であるメチル、エチル及びブチルアルコール又はその混合物のみを使用する点において相違するものであることを認定しうべく、これを左右するに足る証拠はない。しかして、前掲各証拠及び本件弁論の全趣旨を総合すると、本件特許発明においては、前記のような組成のしごきラッカーを使用することにより、第一引用例記載の節止め用ラッカーを使用した場合とは比較すべくもないほど、きわめて短時間に塗料を乾燥させるもので、鉛筆用塗装ラッカーとして、優れた効果を奏するものであり、さらに、他の構成要件と相まち、従来鉛筆のしごき塗りにおいて必要とされた下塗工程を省き、しごきゴムが短時間に膨潤して、たびたびこれを取り換えてもなお塗り厚みの不均一を免かれないという欠点を除去することができるものであることを認めることができ、これを覆すに足る証拠資料はない。以上認定の事実に徴すれば、本件審決は、第一引用例記載のラッカーの組成と本件特許発明において使用するラッカーのそれとの比較において、その相違点に関する認定を誤り、これを前提として本件特許発明をもつて、第一引用例記載の節止め用ラッカー及び第二引用例から当業者の容易に調整することのできるパラフィン不溶性のラッカーを鉛筆の塗装に適用したものにすぎないと即断したものであり、右の点において判断を誤つた違法があるものといわざるをえない。
被告は、本件においては、本件審決理由の当否とは別個に、本件特許が有効か否かを判断しうべきものであるという前提に立つて、本件特許発明の各構成要件は、いずれも本件特許発明に独創性(いわゆる進歩性の意か)又は新規性を与えるものではない旨主張するが、その前提とした点が仮に正しいとしても、前掲甲第一号証の記載及び本件弁論の全趣旨に徴すれば、本件特許発明のラッカーにおいては、溶剤の配合について低級アルコール類のみを使用し、ベンゾール類は一切使用しない配合組成をとるものであること、そして、これに伴い前認定の独特の作用効果を有するものであることが明らかであるから、被告の主張はこの点を看過したものであり、もとより採用しうべき限りではない。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容する。(三宅正雄 杉山克彦 武居二郎)